Liu et al. (2023)

2023.11.23 Thursday

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    Liu, H., Zhong, Y., Chen, H., & Wang, Y. (2023). The mediating roles of resilience and motivation in the relationship between students’ English learning burnout and engagement: A conservation-of-resources perspective. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching. Advance online publication. https://doi.org/10.1515/iral-2023-0089

     

    本研究は,資源保存理論をもとに,英語学習におけるバーンアウトが,レジリエンスと動機づけを媒介した際の,エンゲージメントへの影響を調査した量的研究である。中国の高校生640人を対象に質問紙調査を実施した。

     

    SEMの結果,バーンアウトはエンゲージメントを有意に予測し(β = −.10),レジリエンス(β = −.13)と動機づけ(β = −.10)の媒介する役割も見られた。さらに,バーンアウト→レジリエンス→動機づけ→エンゲージメントの有意な予測も見られた(β = −.03)。

     

    これらの結果から,たとえ学習者の努力が報われずバーンアウトになってしまったとしても,他のポジティブな心理的要因を高めることでエンゲージメントに繋げることができる示唆が得られた。

     

    普段エンゲージメント等を考える際,ポジティブな要因に注目しがちだが,実際の教室現場はネガティブな心理的状態にいる学習者もいることが想定される。そのため,そのような状態からポジティブな状態にかえ,エンゲージメントを引き起こすようにするためには何を優先すれば良いのか,ネガティブな個人差要因も含め検討してみたい。その際,どの要因がどの要因とより密接に関連しているのか,意識しておきたい。(YK)

    Iida & Chamcharatsri (2022)

    2023.11.19 Sunday

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      Iida, A., & Chamcharatsri, B. (2022). Emotions in second language poetry writing: a poetic inquiry into Japanese EFL students’ language learning experiences, Innovation in Language Learning and Teaching, 16(1), 53―66. https://doi.org/10.1080/17501229.2020.1856114

       

      L2学習者は自らのL2学習体験について、どのような出来事について認知し、どのような感情を抱いているのか?この調査では、英語のビギナークラスに在籍する日本人大学生21人が、学習体験を詩で表現した。生徒は15週間かけて、学習体験の記憶を呼び起こし、英語で詩を書き、本を作成しプレゼンテーションを行った。テーマ分析の結果、「学習方略」「英語学習への認識と態度」「外国での英語使用」「テスト」等14のテーマの他に、「嬉しい」「がっかり」「わくわくする」などの感情を示す18語が浮上した。本文では生徒の作成した詩が掲載されているが、調査結果から著者らは感情と言語学習が切っても切り離せない関係にあり、感情をL2教育において無視するべきではない(L2学習での自己表現の実践の重要性)という先行研究の主張を支持している。また、目標言語で自己表現する難易度について、詩を作成するという作業が初級者であっても可能であるとしている。

       

      <memo>質的研究は、参加者の生の声が掲載されていることで、非常な説得力があることを今回知った。詩の威力は書き手にも読み手にも効果や威力が絶大だと思った。(AO)

      Chuang et al. (2023)

      2023.11.18 Saturday

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        Chuang, C. H., Lo, J. H., & Wu, Y. K. (2023). Integrating Chatbot and Augmented Reality Technology into Biology Learning during COVID-19. Electronics12(1), 222. https://doi.org/10.3390/electronics12010222

         

        本研究は、生物学の科目におけるユーザーフレンドリーで教育的なチャットボットアプリケーションのインターフェースを設計することを目的とした研究で、ARCSモデルの4つの側面の構造を考慮した。ARCSモデルの観点から生徒の学習態度を理解するために、102名の中学1年生を対象にアンケートを実施した。その結果、以下のことが明らかになった: (a)注意の側面は関連性、自信、満足度を予測し、(b)関連性は自信と満足度を予測し、(c)自信は満足度を予測した。

         

        本研究は、今まで閲覧したARCSモデルの4側面に関する論文の中で、最新のものであった。

        また、本研究の内容そのものはもちろんだが、参加者がデジタル機器になれている可能性が高いという点においても自身の修士論文と類似しており、参考になった。(KT)

        Hiver and Wu (2023)

        2023.11.17 Friday

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          Hiver, P., & Wu, J. (2023). Engagement in TBLT. In C. Lambert, S. Aubrey, & G. Bui (Eds), The role of the learner in task-based language teaching: Theory and researching methods (pp. 74–90). Routledge. 

           

          本章は、L2分野におけるtask engagementに関する(a)理論的・実証的研究の概観、(b)task motivationとの類似点と相違点、(c)今後の示唆について述べている。

           

          自分が興味を持ったのは、Engagement as an Emergent Constructで言及されていた”another way of seeking task engagement is to examine how parts of the whole relate to each other”という内容である。Engagement(質問紙で)測定する際、行動・認知・感情・社会的側面に関する項目を設けて議論するのが一般的である。ただ、実際には、各側面間には複雑な関連性があるため、各側面ごとに議論することが重要である。加えて、十分に注意すべきは、本章でも言及され、ゼミ内でも議論されてきたengagementの文脈(task level、classroom level等)を念頭に置くことである。文脈を統一することで、先行要因やアウトカムとの関係を正しく測定することにつながる。

           

          これらのことは、本章では述べられている(そして、自分が興味を持っている)ネットワーク分析を活用することで、検討可能である。この分析の考え方は、よく「鳥の群れ」とその群れを構成する「鳥」でたとえられる。「鳥の群れ」というものが実際にあるわけではなく、一匹一匹の鳥が関わり合って群れが構成されている。この考え方をもとにengagement研究にも応用できそうである。

           

          本章を読んで、自分はtask levelの調査をあまりしてきていないが、本章で指摘されていることは他の文脈でも当てはまることである。そのため、今後は、調査対象の変数が文脈とあっているか、複数の変数を扱う際は適切に操作化できているか、という2点に注意したい。(YK)

          Hidayat et al. (2018)

          2023.11.12 Sunday

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            Hidayat, R., Habibi, A., Saad, M.R., Mukminin, A., & Idris, W.I. (2018). Exploratory and confirmatory factor analysis of PERMA for Indonesian students in mathematics education programmes. Pedagogika, 132(4), 147–165. https://doi.org/10.15823/p.2018.132.9

             

             

            第二言語(L2)習得の研究領域では、近年ポジティブ心理学の枠組みを用いて学習者の心理やその効果を調査する研究が増えており、セリグマンのPERMAモデル(Gregersen (2019) | 研究ジャーナル (hiromori-lab.com)を参照)を使った研究などがある。PERMAの教育的研究への採用は、他教科の領域でも共通して行われているようで、本調査では西洋で誕生したPERMAが他文化・文脈でもwell-beingを説明できるか、インドネシアで数学を学ぶ大学生を対象に質問紙調査で検証した。質問項目は、L2文脈を調査したLi (2023, https://doi.org/10.1080/01434632.2023.2241854)と同じ the PERMA-Profiler (https://doi.org/10.5502/ijw.v6i3.526) の15項目をそのまま用いた。探索的・確証的因子分析の結果、この尺度がインドネシア大学生の数学学習におけるPERMAを説明すると結論付けている。

             

            <memo>この研究は質問項目の使用言語や回答者の母語についての説明がなかったこと、数学学習と日常生活のどちらの文脈について尋ねたのか明記されていなかったのが残念である。

            一般的な尺度の質問項目をある特定の文脈に用いることについて、L2文脈でどのように議論されているかを再確認したい。(AO)

            Al-Hoorie et al. (2023)

            2023.11.09 Thursday

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              Al-Hoorie, A. H., Hiver, P., & In’nami, Y. (2023). The validation crisis in the L2 motivational self system tradition. Studies in Second Language Acquisition. Advance online publication. https://doi.org/10.1017/S0272263123000487

               

              本研究は,L2MSSを測る尺度の弁別的妥当性に焦点を当てた,妥当性検証に関する量的研究である。韓国の英語学習を行う中高生384名を対象に,L2MSSを測る複数の尺度を用いた質問紙調査(6グループ:18因子:118項目)を行った。

               

              探索的・検証的因子分析の結果,L2理想自己は言語に対する自信と高い相関が見られることから,異なる概念であるとは言えない結果だった。また,L2義務自己は不利益回避性とは異なる概念ではないものの,実利性とは異なるものである可能性があった。最後に,L2学習経験は主観的努力と異なる概念ではない可能性が明らかになった。これまでのL2の動機づけ分野で,研究の枠組みとして最も多く使用されてきたL2MSSは,他概念と区別できないものがあることが明らかになった。

               

              詳細な先行研究のレビューの中で何度も指摘していた妥当性検証の必要性について,探索的・検証的因子分析をともに実施することが重要だと再認識した。また,潜在変数―観測変数間の関係を検討する因子分析と同時に,観測変数間の関係を検討するネットワーク分析を行うことで,より正確な弁別的妥当性検証ができるのではないかと思う。今後,本研究で扱っていた尺度をもとにデータ収集を行い,両手法を合わせて行ってみたい。(YK)

               

              p.s.

              “based on our experience and available evidence, it appears that channeling efforts and resources into self-determination theory […] might present more promising avenues” (p. 18)と言及していたのは少し意外に感じた。

              Gobel and Mori (2007)

              2023.11.07 Tuesday

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                Gobel, P., & Mori, S. (2007). Success and failure in the EFL classroom: Exploring students’ attributional beliefs in language learning. EUROSLA yearbook, 7(1), 149-169.

                 

                本研究では、外国語としての英語学習における学習者の成功・失敗の要因について調査している。リーディングとオーラルコミュニケーションの各授業において、実際の学習課題における成功・失敗の理由を調査し、学習者が成功・失敗をどのように判断しているのか、その帰属の傾向を調べた。原因帰属理論に基づき、能力、努力、課題の難易度、運の帰属に焦点を当てた質問紙を作成し、日本の大学1年生233名を対象に実施した。

                 

                その結果、失敗に対する帰属反応は、能力不足や努力不足といった内的原因に帰属しているのに対し、成功に対する帰属は、運、教師の影響、教室の雰囲気といった外的原因に帰属している傾向が見られた。つまり、この調査の参加者は成功を失敗よりも外的な要因に、失敗を内的な要因に帰属していた。また、リーディングとオーラルコミュニケーションの両クラスにおいて、学生は失敗を能力、努力、ストラテジーの使用、準備などの内的要因の観点から説明していた。

                 

                この調査以外の結果からも、日本人学生は失敗を自己批判的に捉えるという傾向がみられている。学習者自身の興味や関心から取り組む英語学習でも、受験科目として必要だから勉強するにしろ、自己批判的な捉え方をしては学習を継続することは難しいだろう。今後の調査では自己批判的な捉え方をしないための予防策や対抗策を講じる必要があるのではないか。(HS)

                Colakoglu & Akdemir (2010)

                2023.11.04 Saturday

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                  Colakoglu, O. M., & Akdemir, O. (2010). Motivational measure of the instruction compared: Instruction based on the ARCS motivation theory vs traditional instruction in blended courses. Turkish Online Journal of Distance Education11(2), 73-89.

                   

                  本研究は、ARCSモデルに基づいて開発されたブレンデッドコースの指導に対する学生の動機づけ評価と、そうではないブレンデッドコースの指導に対する学生の動機づけ評価を比較することを目的としている。

                  実験グループ用6つ、対照グループ用6つの計12のコースモジュールが開発され、各モジュールの終了時にARCSモデルに基づく動機づけ尺度を用いて、実験グループと対照グループからデータを収集した。

                  結果として、ARCSモデルに基づいて開発されたものへの評価と、そうではないプロセスを用いて開発されたものへの評価は、ARCS モデルのすべての構成要素において、統計的に異なることが明らかになった。具体的には、ARCSモデルの構成要素に基づいたモジュールの設計は、指導の中でARCSモデルのすべての動機づけ要素を経験し、学生の評価を上昇させた。

                  本研究は、ARCSモデルの有用性が強調されただけではなく、比較の観点で議論することにより、ARCSモデルが持つ特徴についての知見が得られた点で、参考になった。(KT)

                  Kiss and Pack (2023)

                  2023.11.02 Thursday

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                    Kiss, T., & Pack, A. (2023). A dynamic network analysis of an L2 motivation system: The role of central relational links. Journal for the Psychology of Language Learning5(1), e5113223. https://doi.org/10.52598/jpll/5/1/1

                     

                    本研究は,10週間にわたる動機づけの変動を,ネットワーク分析を用いて分析した研究である。60人の大学生を対象に,10週間にわたる英語学習に対する意欲が記録された日誌を分析した。

                     

                    ネットワーク分析の結果,宿題や課題・感情・健康の3側面が学習者の動機づけに影響を与えるものとして明らかにされた。また,3週目・7週目・9週目のネットワークで中心的な役割を果たす要因について,宿題や課題が3地点共通して最も大きい役割を果たしていた。

                     

                    本研究から,動機づけに影響を与える要因は様々であり時期によって異なるものの,主要な要因はある程度共通していることが伺える。

                     

                    社会ネットワーク分析や心理ネットワーク分析など,様々なネットワーク分析手法がある中で,本研究は両手法を合わせて分析したと述べていた。ただし,それぞれの分析手法は目的や分析手順が異なることから,結局本研究がどのネットワーク分析の種類に当てはまるのか,あまりわからなかった。そのため,心理ネットワーク分析だけでなく,ネットワーク科学全体を概観する文献を読んで理解を深めたい。(YK)

                    Gregersen (2019)

                    2023.11.01 Wednesday

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                      Gregersen, T. (2019). Aligning positive psychology with language learning motivation. In M. Lamb., K. Csizér., A. Henry., & S. Ryan (Eds.), The Palgrave handbook of motivation for language learning (pp. 621–640). Palgrave Macmillan.

                       

                      このチャプターは、ポジティブ心理学(最も価値のある人生を作るものは何かという研究:PP)の枠組みによって第二言語(L2)習得の動機づけを説明し、PPがL2研究や教育実践に使用できる可能性を論じている。著者は、これまでのL2研究の様々な動機づけ理論をPPの視点から考察することで、新しい概念のように見えるPPが実はL2領域でもKrashenの情意フィルターなどを含め1970年代から存在したこと、またセリグマンのPERMAモデル(P:ポジティブ感情、E:エンゲージメント、R:関係性、M:意味や価値、A:達成感)について、近年のenjoymentやanxietyも含めた動機づけの様々な概念で説明をしている。著者は、セリグマンのPERMA(PP)の考え方が、何が学習者のモチベーションを向上させるかという観点において(機能不全に大きな焦点があるのではなく)L2動機づけ研究の方向性と完全に一致していると主張し、今後はPP要因と言語能力向上との関係性についての研究が求められると述べている。(AO)